肝虚な現代日本人
現代人に多い体質や症状に肝虚(かんきょ)という物があります。
五行の理論で肉体の機能5つに分けると「肝、心、脾、肺、腎」の5臓で表しますが、その内の肝の機能が弱い状態を肝虚と言います。
肝と言っても東洋医療の肝は肝臓そのものと言うよりその作用を指します。
そしてそれは現代医療とは少し理解が異なっています。
ではその肝とは一体何をしているのかと言えば、目、筋肉、血などのコントロールをはじめ、その他多くの仕事をしているとても働き者です。
なかでも重要なのは疏泄(そせつ)と言う全身の気(エネルギー)の流れを調整する働きです。
その働きのお陰で新陳代謝や内臓の動き、そして精神活動がスムーズに行われています。
つまりは自律神経の様な役割です。
だからこの肝が消耗しやすい春はとかく自律神経失調の症状がで出ます。
この肝が弱るとどんな事になるかと言えば体のエネルギーの流れが滞ります。
つまりある所では過剰になり、ある所では足りなくなると言った状態になります。
例えば首筋や頭がのぼせたり、目が充血したり、首や肩がこわばったかと思えば、手足が冷えたり汗をかいたりもします。
また胃腸がうまく動かなくなり食欲がなくなったり下痢をしたり、便秘をしたり、そして夜になっても気が下がらず眠れなくなったりと…。症状は人それぞれ本当に様々あります。
身近な例だと女性の生理の前の胸が張ったりするのもこの気のつまりによる物です。
更に顕著なのは、更年期に起こる様々な症状がこの肝の働きの失調による所が大きのです。
そして更に厄介なのは、これが精神的情緒に非常に影響する事です。
イライラしたり、鬱々したり、色々な事が気になってとても神経質になったり、感情的になり怒りや悲しみが抑えきれなくなったりもします。
時折『私、生理前になると性格が悪くなってとっても嫌なんです。』と訴える方がいらっしゃいます。
でもそれがもし生理周期のある期間に限定されるなら性格と言うよりも生理を起こす事に肝が消耗してその働きが一時的に不十分になっているだけです。
だから肝を補う治療や生活をすれば症状も緩和してきます。
鍼灸では肝の経絡(エネルギーの通り道)を直接鍼や灸で刺激して流れやすくしたり、働きその物を補ったり(援助)します。
生活の中で出来る事は、肝を消耗するような事を避けて肝が働きやすくする環境を作ってあげる事です。
例えば肝は目と関係しているのでPC画面での作業やゲームを連続何時間もする事はかなりの消耗になります。
特に肝が回復する夜に行えば回復がかなり邪魔されます。
日中に仕事でのPC画面の作業はともかく、せめて夜は目を極力使わない事をお勧めします。
私もメールチック以外のPC作業はなるべく朝に回しています。
そして筋肉とも関係しているので軽いストレッチやウォーキング等で筋肉を柔軟に保つ事も役に立ちます。
ただこの場合、やり過ぎは禁物です。
急にやり過ぎてしまうと筋肉をかえって傷めたり緊張させて逆効果になってしまうからです。
何事も気持ちよく楽しいぐらいに留めておく事が肝心です。
そしてもっとも重要なのがストレスを溜めない事です。
まず肝は本来伸びやかな性質があります。
そしてとてもストレスに弱いのです。
例えるのなら伸びやかで自由な子供の様な性質です。
子供をギチギチに拘束したり、プレッシャーをかければ直ぐに萎縮してしまうように、時間や空間に余裕がなかったり、プレッシャーの中での生活は本当に肝を消耗させてしまいます。
自分の中の伸びやかな子供を育てるイメージでゆったりと暮らして頂きたいです。
そして褒めれば伸びていく子供の様に、ゆったりと楽しくさせていれば次々に気力や行動力も出てくるから面白いです。
治療にいらした肝虚症の方が『でも…』や『~べき』と頻繁に言われていたのが段々と『~したい』や『~する』に変わられるのを感じると肝が育っているな~と嬉しくなる時があります。
とかく日本人は責任感が強く、几帳面な傾向があるに加えて、現代の目を酷使する生活環境でかなり肝を消耗しています。
だからたとえ効率が悪くても自分の中の伸びやかな肝を見守って欲しい、それがいづれは伸びやかな創造性や行動力に変わるかもしれないから…。